第三話はこちら。
体外受精が本格的に始まり、私に課せられたのは毎日夜8時頃にペン注射でお腹をつまんで注射を打つことと、欠かさず処方された薬を飲むことでした。
ペン注射は冷蔵庫で保管しなければならず、スペースの関係で野菜室に置いてました。
キャベツ・トマト・きゅうりなどと一緒に注射器具……なんともシュール。
ペン注射の場合は、第三話でも書いてますがペンの中に最初から薬液が入っていますので自分で調合する必要はありません。毎日注射終わりに「どれだけ減って、残量はいくらか」を専用冊子に記載します。
注射は二週間くらい…だったと思うのですが、予め決まっていた診察日に病院に行きました。どれだけ卵胞が育っているかを確認されます。
育ち具合で採卵手術のタイミングが決まります。確か、注射開始してからの最初の診察で手術日が決まりましたが、卵巣の状態によってはすぐには決まらないかもしれません。
採卵手術が決まったら、薬が処方されます。
「排卵をさせないようにするため」の薬で、飲むタイミングが明確に指示されます。
この薬を飲むタイミングをミスしてしまうと、せっかく注射で育てた卵が排卵されてしまい、おじゃんになってしまう可能性があるそうです。
怖っっっっ
という言葉を懸命に飲み込んで、必死にメモ。(帰宅後カレンダー付近にスケジュール表を貼り付けました)
その飲み薬に加え、「エストラーナテープ」というお腹に貼る絆創膏のようなものが処方されました。
エストラーナテープとは?
ホルモン補充を担うようで、卵胞の形成促進・子宮内膜を適切な状態に整える作用があるようです。
このテープというのが二日に一度張り替えるものなのですが、お風呂入る時もつけたまま。張り替えるタイミングより前にはがれそうになり何度冷や冷やしたか…。
近づいてくる採卵手術日。
前日何時までに食事を済ませるように、手術当日は何時までなら飲み物OKなど、細かく決められていました。
これまで幸い手術とは無縁だった私。人生初の手術がこの採卵手術になろうとは。どうなるかわからんもんですね。
2023年6月。手術当日。
決められた個室に通され、カーテンが引かれます。
「採卵手術を受ける方へ」の紙を必死に読みます。(だが緊張で全然頭に入らねェ!!)
手術のための衣に着替え、どこかのタイミングでノーパンになったと思います。下に持参したバスタオル引いてます。
点滴をされ、点滴を引いた状態で手術前最後のトイレに行きます。
ガラガラと点滴引いて歩くのも初めてでした。とんでもない重病人のようだ…。
「じゃあそろそろ行きましょうか」と看護師さんに声をかけられ、いざ手術室へ行かん。
…ところで、採卵手術ってどんなイメージをお持ちですか???
私の場合、受けた説明や自分なりに調べた範囲では「なんかやっべえ針を刺すらしいけど、寝てる間に終わるから何も心配ない」という感じでした。
育てた卵子を取り出す手術なので、読んで字のごとくではありますが……
「寝てれば終わる」
そうなんです。(盛大な前振り)
手術室に入り、椅子に寝転ぶように促されます。
脚をぱっかーんと開かされます。(本当に恥ずかしいしどうにかならんのコレ)
麻酔が投入され、眠くなってきました。お、おおこれが麻酔かすげえ…本当に眠く…これで起きたら終わってて、ベッドに運ばれるって感じね…OK……(寝落ち)
どれくらいの時間経過かわかりませんが意識が戻り、お医者さんと看護師さんの会話が聞こえます。
「右が終わりました~、次は左いきま~す」
という声がはっきり聞こえ、金属音もする…。
ん?
んん???
ちょっとお待ちを。
もしや、
終わってない??????????(絶望顔)
「左が…、まずひとつ、次」
そして襲ってきた刺される痛み。
しかも刺されている場所考えてください、卵巣ぞ?????
右が終わりましたってあの台詞、つまりはまだ半分終わったって段階?まだ全然終わってないじゃんとパニックになる私。
この話をするたびに「眼が覚めました!麻酔してください!」っていえばよかったんじゃ?って言われるんですが。いや、そうなんですよ。そうなんだけども。驚きと痛みと恐怖でうまく声が出せなかったんよ勘弁してくれパトラッシュ。
近くにいる気を利かせた看護師さんが麻酔を促してくれる…なんて超展開は望めず。左が終わる頃にはすっかり眼も冴えて、痛み&恐怖で茫然。
なんというか…必ずしも寝てれば終わる手術ではない、途中で起きる可能性もあるというこの私の実体験がどこかのどなたかの役に立てばいいなって思います。
自分で歩いて個室に戻り、そこから一時間は絶対安静ということで痛み止めを点滴で入れてもらいながら横になっていました。
やっと人間味を取り戻せた頃に、培養士さんが個室に来訪、結果を教えてくださいました。
一回の採卵手術で18個とれたそうで、
10個→体外受精(従来)
8個→顕微授精
に回すこととなりました。
体外受精とは?
卵子に精子をふりかけ、自然に受精させる方法です。
顕微授精とは?
ガラス製の針を使用して形態と運動性が良好な精子を選択して卵子に注入して受精させる方法です。顕微鏡で確認しながら直接注入します。
顕微授精の方はいざ受精を試みる!という段階で卵子の状態を培養士さんが細かく調べます。
18個ほど卵子が取れたものの、半分の9個は未熟卵子だったようで受精を試すにまで至ることができませんでした。
途中で麻酔切れて、めちゃくちゃ痛い思いをしたのに半分も…と正直額然ときました。これって未熟じゃない状態まで育てるってどうすればよかったんだろう?と思います…。
体外受精(従来)の方は未熟卵子かどうかを見ることはできないようです。
最終的に
5個→体外受精(従来)
4個→顕微授精
に回すこととなりました。
※ちなみに通院している病院は受精卵を最大8個まで凍結可能ということでした。
ふらふらとしながら、旦那に迎えられ家に帰りました。しばらくは湯銭に浸かってはダメだったと記憶しています。
採卵から一週間後に自分から決められた時間に電話をし、受精と凍結の状況を聞く流れだったんですが「怖いな~ずっとそればかり考えちゃいそう」と思ってた私に、それどころじゃないものが襲い掛かります。
腹水です。
採卵手術後、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)というものによって腹水が起こるようです。
これが採卵できた数が多いほど、よりひどい症状となって現れるのだとか。私の18個というのは多い方だったようで。
手術から2日ほどたって腹水が襲ってきました。
腹水になるのも初めてだったんですが、鏡でみてはっきりわかるほどお腹が水で膨らんでいて、いつも履いてるスカートがぱつぱつになるような状態でした。
普通に歩くのもままならず、寝てても起きてても座ってても何してても痛いんですこれが。
痛くて夜も寝られず、耐えかねて深夜に病院に電話し翌朝受診しました。
お医者さんからは衝撃の一言が。
「まあ、この手術したらそうなるよね…。一週間くらいで治まるから」
と診察が終わりそうな流れに。
待って!???!?!?
このまま帰されるん!?!??!?!
さすがに採卵での麻酔切れから学んだ私は、自分から言わなければと「痛いは痛いんで、痛み止めとか何かもらえないんでしょうか」等々必死で訴えました。
結果、痛み止めはもらったんですがもう効いてるのかどうかよくわからない。
この時の私は採卵手術を受けた人のブログを、ベッドで横になって唸りながら片っ端から読み漁っていました。とんだ検索魔だ。
すると、中には「採卵したあと、次の日から普通に立ち仕事してました~(にこちゃんマーク)」というものも出てきて。
私の中の鬼○の刃の我妻○一が「嘘でしょ!?嘘すぎじゃない!?」と泣きわめいてました。リアルに泣いた。本当に泣いた。
なんで私は普通に妊娠できないんだ。こんな思いをしないといけないんだって。でもここで不妊の原因である旦那を責めることは絶対したくなかったです。
最終的に私の腹水は12日ほど続いていた気がします。(一週間どころじゃないじゃん…)
12日目、トイレに行ったときに「絶対飲んだ量より出た気がする…」という感覚が。
そう、これがお腹から溜まっていた水が抜ける感覚だったんです。何回かトイレにいっているうちに急激に楽になり、痛みもなくなり。魔法のよう。すごい。
正直12日も腹水と格闘してて、元気な自分を忘れつつあったんですよね。
人間って病に伏せると、すぐ健常な頃を忘れちゃうもので…健康って素晴らしい。
ボロボロ状態で培養士さんに連絡し、結果は……
9個受精を試し、6個受精に成功!
更にその6個とも胚盤胞まで育ってくれて、無事に全て凍結完了した!
とのことでした。
胚盤胞(はいばんほう)とは?
受精卵が着床できる状態に変化した受精卵のことです。胚盤胞は、受精から5日目頃の受精卵で、着床の準備が整った状態です。受精卵が必ずしも胚盤胞まで育つということではないようです。通院している病院では、胚盤胞まで育ったら凍結する方針でした。(つまり、移植は胚盤胞のみ。病院によっては初期胚を移植することもあるようでした。)
不妊治療もこのような状況だと、受精卵を凍結できたというステップだけでもう本当に感動もので。めちゃくちゃ泣きました。腹水の時と違うのは、それが嬉し泣きであるということでした。
次回、受精卵を体に戻すの巻!………と、思ってたのにすんなりとそうはいかなかったお話!
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