【読書感想】六人の噓つきな大学生を読んでつらつら

本編に関する重大なネタバレを含むため、未読の方はご注意!

目次

読んだ本の情報

浅倉秋成によるベストセラー小説(2021年刊行)で、人気IT企業「スピラリンクス」の新卒採用を舞台に、最終選考に残った6人の就活生が「1人を決める」という課題の中で、互いの嘘や秘密を暴き合う心理戦を描く青春ミステリー作品です。2024年には浜辺美波、赤楚衛二ら若手俳優で映画化もされ、原作の伏線回収が見どころの密室サスペンスとして話題を集めました。(AIによる概要)

©︎Copyright 2021 出版社. KADOKAWA.

1.巧みなストーリー構成

読みやすさと没入感でいえば、満点評価を手にしてもいいのでは?と思えるほどの内容でした。いやあ~すぐに読み終わってしまった。疾走感があって、中だるみを生んでいないのがいい。

冒頭「波多野祥吾(はたの しょうご)」という人物の独白のようなものが出てきて、不吉な雰囲気を漂わせてくれる。一ページにおさまるこれが本人が単に頭の中だけで感じたものとは異なり、何かしら形として残された状態であること…手記や日記、あるいは手紙…なのではないかと感じたのは最後の一文にフルネームがあったからかもしれない。
読者目線でまずわかるのは、これから起こる、否、過去に起こったらしい『ある事件』の犯人は波多野祥吾(はたの しょうご)ではないということ。
いや、犯人なのにそうじゃないと見せかけるための文面かもしれないけど、こんな冒頭で著者がいきなりしかけてくるとは考えにくいので、これはシンプルに波多野は犯人じゃないと受け取っていいのだと思う。(個人的には)

次のページからは、就職活動真っ最中の波多野視点で話が進む。なので、ますます読者は彼がこれから事件に巻き込まれる被害者だという目線で追うことになる。
テーマが就職活動なので、非常にわかりやすい話だからするすると読み進められるのがいい。

みんなで力を合わせて内定を勝ち取ろう!と意気込んだところで、たった一人しか採用しない、おまけにその採用者は自分たちで話し合って決めろという前代未聞のグループディスカッションに変更になり皆が驚愕…というところで、急に「事件に関わった人間たちへのインタビュー」が始まる。

過去軸の就職活動と例の会議、その随所に挟まれる現在軸の「インタビュー」という形式がとてもいい。しかもこの「インタビュー」は取材されている人間が一方的に喋っている図式だ。これがまたうまく物語をコントロールしているといえる。過去、現在をうまく織り交ぜて、現在軸の視点を誰のものかわかりにくくしているのが非常にいい。まあつまり、普通に読んでいたら誰がインタビューしているのかがわからないのだ。読者は波多野だと思いながら読んでいるが、そうじゃないのかもしれない感じながら追うことになるのだ。ハラハラドキドキする。

2.とにかくミスリードがうまい


これに尽きると思う。情報を出すタイミング、情報の中身のコントロールが秀逸なのだ。
最初の手記が波多野のものだし、就活中も事件がおきた会議中も彼目線で物語を追っているので、読者はずっと波多野がスピラに内定したと想定して読み進めているはずだ。あの事件に関わった当事者たちにインタビューをしているのも当然、彼だと思ってみていた。(いや私が鈍感なだけで、鋭い人はそんなことなかったのか?)
巧みな構成で、誰視点の話かを明瞭にしているようで、実は間違った方向に導いている。素晴らしきミスリード。
だからこそ過去軸で、波多野が会議の終盤に犯人を特定できたというのにこいつが犯人だということを明かさず、自らが犯人と偽って宣言し退出してから、現在軸のインタビューに話が戻った瞬間ゾッとするのがたまらない。
「じゃあ現在軸のインタビューで『犯人が病気で死んだ』って言っていたあれは、波多野が死んだってこと?でも波多野は犯人じゃないはずで。え?なんで?本当に病気で死んだの?というかじゃあこのインタビューしてる人って誰!?」とパニックになる。さっきまでこの人だと思ってみていたのに、ずっと違っていましたとわかったらどうする?怖すぎる。それがいい。

3.何度も掌返しを味わえる


絶妙な後出しじゃんけん(とはいっても伏線はきちんと張ってあったとあとで気づく)のおかげで「あ、そうだったんだ…」と何度も登場人物に対して思えるのだ。
一人ミルクボーイしてる感じ。
「やっぱりこういうやつや!」「でもおかんが言うには(後から出た情報)」「ほな、こういうやつなんか…」を何度もやる。まじでこれ。
自分の理不尽さに打ちのめされる、自分の現金なやつ加減に自分が呆れてくるという不思議な体験をさせてくれる。
いかに一つの視点で物事・人を判断するのが愚かなことなのかを教えてくれる。
これが一番伝えたいテーマなのかな?と思う。
就職活動で採用する側においてもこのことを嘆いていた。瞬間的に、その時にある部分だけを表面に出す学生たちをみて正しい評価と判断、内定を出すことなんて不可能だと正直に話す採用担当者。いや本当にそうだよね。できるわけがないのよ。それなのに、永遠同じように就職活動なんて馬鹿げたことをやってんだと糾弾する九賀くんのシーンはあれはあれで痛快だったなー。(犯人の犯行動機を語る場面なので全然穏やかじゃないんだけど)

ただでもなんというか…『知らなかったことを知ればその人の見方は変わる』ってのは当然のことなんだけどもさ。『知る』って自分でできる範囲では限界があるじゃない。すべてを知れるわけがないんだから。
ガンダムSEEDのクルーゼさんも言ってたでしょ?
「知らぬさ!所詮人は己の知ることしか知らぬ!」って。当たり前のことを言ってるようで、非常に的を得ている私の大好きなアニメキャラ名言TOP10には入る。


ちなみにAIさんによるとこの名言は…


人間は自分が知っていること、経験したことの範囲内でしか物事を考えられないという、人間の本質的な限界や愚かさを表しています。


だそうです。
まさしく、この小説でもいえたことかもしれない。
その本質的限界の中、いろいろな人と出会い、その時々の環境下でどのように自分が振舞うかなのだと思います。

オチもよかったですね。
波多野が、『嶌さんが採用にふさわしくないと思った場合には…』云々という文面をスピラリンクスに送ろうとしてた時間軸がわからないからこそ嶌さんは不気味に感じたっていうのが最後に出てくるのがまたいい。ゾッとする感触も残してくれてる。生々しいやつではないけど。

これは自信をもって人におススメできる小説だと思いました。

©︎Copyright 2021 出版社. KADOKAWA.

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次